この記事は
- 新星ボカロエディタ「VoiSona」の知声をミックスしたい
- より自然にオケに馴染ませる方法が知りたい
方に向けて書いています。
VoiSona-知声
2022年にベータ版ではありますが、VoiSonaというボカロエディタがリリースされました。
付属する知声というボイスライブラリはなんと無料で、ユーザ登録をすればタダで使うことができます。
VoiSonaが対応するプラグインVST規格にものになりますが、Blue Cat Audio Patch WorkというAUプラグインを購入することで、Logicでも動作することが確認できています。
スタンドアロンでも動作はしますが、もともとプラグインで使うことを想定した設計となっているので、プラグインとして利用するほうがよいです。
筆者は今年度から、この知声で作曲を行っています。
昨年までは初音ミクNTを使い倒していたのですが、知声のボーイッシュで自然な声が気に入っており、今年は多用しています。
今日は、知声に歌わせた際に馴染みのよいミックス方法について記載してみたいと思います。
なお、初音ミクNTに関しては22曲作ったノウハウをまとめた記事がございますのでこちらを参照いただければと思います。
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知声のミックス方法
現在までに、知声で4曲作曲しました。
筆者が、
- 4-12月はとにかく曲を作る
- ラフミックスで仕上げる
- 1-3月でリプロダクション&本ミックス
というルーチンで曲を作っているために、2022年7月現在ラフミックスではありますが、それでもいろいろとやっているので、
よりオケに馴染むミックス方法をご紹介したいと思います。
おかげさまで、このミックス手法において全国の作曲コンテストで賞もいただいた実績がありますので、皆様のお役に立てれば幸いです。
参考曲
今回は、2022年7月にリリースした「元気でね」を例にしてみていきたいと思います。
プラグイン1:プレEQ
まずはEQです。
基本的にはハイパス・フィルターの用途で挿入しています。
そのままの声でも作曲工程では質が高く聞こえますが、ミックス工程となるとやはり余計なローが鳴っていることに気づくんですよね。(不思議)
EQは昨年はLogic標準のものを使っていましたが、現在はPro-Q3を常用しています。
いろいろなことができて効きもよく、DTMerならば絶対持っておいたほうがよいプラグインだと思います。
EQのポイントとしては。
- 100Hz以下はまずいらない。鳴っていても楽器の邪魔になるのでカット
- 300Hzミックスで籠もり、モヤりポイントなのでカット
- 900Hz,3kHzマキシマイズすると耳が突くポイントなので緩やかにカット
としています。
100Hzはどんなボカロや生歌であってもカットでよいと思いますが、300Hzより上はこれまでボカロで曲をたくさん作った経験で得たポイントです。もちろん歌によって耳を突くポイントは変わるのでこの辺は流動的です。
プラグイン2:マイクプリ
もともと、知声の声は質が高いので、入れる必要もないのかもしれませんが、一応マイクプリのプラグインを挿入しています。
ただゲインは下げ気味です。
筆者はAntelopeのAFX2DAWを導入しているので、BA-31モデリングを使っています。
が、なくてもいいものでもあります。後述するエキサイターやサチュレーションでカバーできる領域だと思います。
プラグイン3:コンプレッサー
人間とは違い、ボカロですからある程度レベルは揃っていると思います。
ですがやはりコンプは必要です。
ボーカルには反応速度が遅い、Opt系のコンプレッサーが自然でおすすめです。
Logic標準のコンプもOptモデリングがありますが、筆者はここでもAntelopeのLA-2Aモデリングを使用しています。
ゲインリダクションは、3-5dB程度触れる程度でよいかと思います。
プラグイン4:エキサイター
巷の人間が歌ったCDの音源について、帯域を絞って聴いてみると。
4kHz以上の音も結構出ているんですよね。
ですがボカロはここがあまり前に出てきません。
いや、もしかしたら本来人間の歌声もこの倍音はなく付加されてものなのかもしれません。
ということでエキサイターで高域について付加しています。
使用しているのは、NeutronのExciterです。(筆者のは3ですが)
2.9kHz以上を5dB程度Tubeにて増幅しています。
プラグイン5:ディエッサー
ボカロといえども、子音は耳を突きますので、ディエッサーはしっかりかませたほうがよいです。
ディエッサーは「さしすせそ」などの子音の耳が痛くなるポイントだけを叩くエフェクトです。
基本的にプリセットを選択して、DETECTIONのしきい値を下げるだけです。
歌を聞きながら、「さしすせそ」などの子音の部分でしきい値をオーバーするようにDETECTIONのバーの位置を定めましょう。
今回は-32.8dBとなりました。
プラグイン5:サチュレーション
これはエキサイターでやったことと目的は同じです。
倍音を付加する目的で挿入しました。やろうと思えばNeutronだけでもできると思います。
利用したのは、T-RacksのClassic Clipperです。
プラグイン6:ピーク&ミックス用ポストEQ
最後に、もう一度EQを挿入しています。
このEQの目的は
- ピークを削る
- さらに不要な帯域を削る
ことです。
ピークは、よくDTMの記事でみかける、Q値を絞って増幅したときにハウるポイントを探していくやつです。
歌の場合でもピーク処理はやったほうがいいですが、あまりハウるポイントはありませんでした。
で最終的にミックスしているときに、さらに不要な帯域を見つけた際もこのEQで削っています。
具体的に、筆者は2MIXをリファレンス曲と比較する際に、
- 〜100Hz
- 100-200Hz
- 200Hz-500Hz
- 500-1kHz
- 1kHz-2kJz
- 2kHz-5kHz
- 5kHz〜
といった帯域ごとに絞ってリファレンスと比較しています。
そういった際に、ボーカルがでかすぎるポイントを探していってます。
今回の場合は、
- 600Hz
- 900Hz
- 1.5kHz
- 3kHz
付近で、耳が痛くなる箇所があったので削りました。
結果以下のような設定となっています。
ちなみに谷が半透明になっているのは、ダイナミックEQです。
しきい値を超えた場合のみカットされます。
こういった帯域ごとの処理を粘り強くやることでどんどん聞きやすくなっていきます。
今回はラフ状態ですが、来年の〜3月頃には更に削ったEQ設定になると思います。
とはいえ現在でも、2つのEQで相当削っているのはわかると思います。
そうなんです。ボーカルで主役だけどもかなり削っていいんですよね。
個人的要注意なポイントは、300,600,1kHz,2kHzですね。このうち300,600はかなり削っていよいでしょう。
ディレイ&リバーブ
上記のような設定を行うだけで、実はもうかなりオケとの馴染みはよくなっていると思います。
あとは空間系をほんの少しばかり入れてあげればより馴染みます。
筆者の場合、ディレイ&リバーブともに、ショート、ミドル、ロングという3つの設定を行ったものをかけることにより、立体感を演出しています。
したがってAUXトラックが合計で6トラック必要になります。
さらにボーカルに関しては、これに加えてプレートリバーブをかけることもよくやります。ので合計7トラックですね。
ボーカルトラックのBusをみてみると。しっかり7トラックあります。
それぞれの設定は。
ショートディレイ
大体いつも50msくらいで設定しています。ごくあっさりかけることでよりボーカルが前に出て聞きやすくなります。
センドレベルをめちゃくちゃに上げるとダブリングにもできますが、いつもごく浅くかけてます。
ミッドディレイ
一番要なディレイです。ステレオディレイでテンポ同期させています。
ミッドディレイの場合は、片側を8分音符、片側を付点8分音符の設定にする場合が多いです。
Feedbackはまちまちですが、いつも大体20%くらいで落ち着きます。
ロングディレイ
ロングディレイは、ミッドよりも後ろの感覚で設定します。
一回程度鳴ればいいので、Feedbackは10-15%程度で4分音符や付点4分音符で設定しています。
センド量もオケの中では鳴ってるか鳴ってないかわからない程度の音量でよいです。
ショートリバーブ
ショートリバーブはルームリバーブを設定しています。
基本的にはボーカルにしかかけていません。こちらも際立たせる用途です。
ミッドリバーブ
メインのリバーブですが、プレートリバーブもかけるためにあまり深くしないようにしています。
こちらもルームリバーブで、部屋のサイズが少し大きい設定です。
ロングリバーブ
ロングリバーブはさらにもう一弾部屋が広い想定のルームリバーブです。ごく浅くでよいでしょう。
プレートリバーブ
最後にプレートリバーブです。
ボーカルをオケに馴染ませるには必要不可欠なリバーブかもしれません。
メインのミッドリバーブと同程度センドします。
ちなみに、ディレイやリバーブそれぞれのセンド量ですが、一旦0dBまでバスに送ってから、
オケとのバランスを聞きながらセンド量を下げていく方向でミックスします。
結果、自然に聞こえるセンド量は微々たるもので、意図的に残響を残したい場合は除き、ごく浅くセッティングする結果となります。
最近はまたウェットなミックスも出てきましたが、巷のCDはそれでもまだかなりドライだと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
筆者の楽曲で、実際にボーカルをどのように処理しているか実際のパラメータを表示させながらご紹介しました。
今回はサードパーティのプラグインも利用しましたが、基本的にDAW標準のコンプやEQでも同クオリティーにすることは全然可能です。
現在のプラグインの質はそれだけ高いです。
なので、持っていないプラグインを無理して購入せずあるものでやってみることから始めてみましょう。
皆様の創作活動のお役に立てば幸いです。